*1996年07月08日:なぜホームページを公開するのか
*1996年07月09日:剃刀メールの調査打ち切り
*1996年07月10日:原稿提供依頼を無視する
*1996年07月11日:ある活字中毒患者の症例
*1996年07月12日:有機溶剤攻撃
*1996年07月13日:爽やかに晴れ渡った休日出勤日
*1996年07月14日:「ブッダ」再調査
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*1996年07月08日:なぜホームページを公開するのか


 アウトプットなどしなければ、これは本当に、人生も生活も楽になる。誰からも、顧みられることなく期待されることなく重圧を受けることもなく。皮肉ではない。世間に対してアウトプットなんぞしている人間よりは、遥かに多くの自由な時間を手にすることが出来るだろう。

 例えば仕事。アウトプットせずに「休まず遅れず働かず」を決め込んでも、そう簡単には馘にはならない。同期の働き者たちが、相対的に高い評価と賃金を得る代償に、自分の時間を多かれ少なかれ犠牲にしているのに対し、評価の対象にこそ上らなかろうが、手取り賃金こそ多少安かろうが、自由時間をより多く享受出来るのだ。この世で時間ほど貴重なものが、他にあろうか。

 プライベートでも、同じこと。クラブやサークルで頭角を現わし(即ち世間に対してアウトプットして)注目を集めると、あなたには途端にプレッシャーがかかる。誰があなたにプレッシャーをかけるわけでもない。あなたが自分でプレッシャーを“作ってしまう”のだ。暗黙の(好意ある)期待に応えるために、結果を出さなければならない。そしてあなたは時間(と努力と資金)を投入して、必ずやなんらかの結果を出すであろう。それはまたしても注目を浴び、かくして無限ループが完成する。

 何故アウトプットするのか。上記のループを“負”と見るか“正”と見るかの違いだ。常に怠ける方向に流される自分を叱咤激励し、新しい知識を仕込ませ、感性を磨かせるために、世間からの(暗黙の)期待を利用する。つまり外圧だ。これが、私がホームページを公開し、更新し続けている理由である。

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*1996年07月09日:剃刀メールの調査打ち切り


 例のアスキーネットからの匿名メールの発信者について、アスキーネットの複数のユーザーに、該当IDの持ち主を調べてもらったのだが、一切情報のないユーザーらしい。6年間書き込みのない、情報のないユーザー。こういう用途のために(“こんなこともあろうかと”)秘蔵していたIDであろうか。まぁ仕方がない。さらに追求するすべがなくはないのだが、そもそもが暇潰しであったのだから、これ以上の(私と友人たちの)工数は、本末転倒というもの。

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*1996年07月10日:原稿提供依頼を無視する


 Aという出版社から、原稿依頼のメールが来た。例によってホームページ紹介の企画であり、いつもなら(格好の宣伝の場であるから)喜んで引き受けるところなのだが、今回はいささか様子が違う。

 ホームページ制作の苦心談を、150乃至200のホームページについて収録するらしいのだが、その原稿は(もちろん)こちらが提供するのみならず、画面キャプチャー(と、スキャンした顔写真)も提出するのである。要するに、編集者はほとんど何もしないのだ。画面の取り込みすらしない編集者というのは、初めてである。「掲載料金は無料です」と来たが、当たり前だ。「ご協力いただきたい」との文面なので、ボランティア作業を求められているのだと思うが、向こうはこれで利益をあげるのである。全く納得がいかない。

 原稿料を寄越せとは言わないが(「人数が多いので献本はさし上げられません」というぐらいだから、当然、原稿料が出るわけが無い)、他人のただ働きで儲けようという姿勢が、不愉快である。原稿を送るのは、やめた。

 声楽のレッスン。課題も方向も、改めて見えて来た感じである。

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*1996年07月11日:ある活字中毒患者の症例


 活字というよりは、文字を読めないロスタイムには、本当に落ち着きがなくなってしまう。無論、四六時中活字を読んでいる訳ではない。展覧会で絵を観たり、ボーッと風景を眺めていたり、ビデオを観たり、散歩をしたり。これらの時間はいいのだ。しかし例えば、うっかり文庫本も持たずにレストランや居酒屋に入ってしまうと、もうどうしようもなくなる。

 雑誌や新聞がおかれていれば、OKだ。しかしちょっと洒落た店になると、そのようなものは置いていない。そうなると仕方がないので、メニューを読む。ところがメニューを読んでいると、ウェイトレスが誤解するのである。(当たり前である。)追加注文するつもりは全くなく、単に字面を読んでいたいだけなのであるが。そもそも、多くのレストランやパブでは、注文がすむとメニューを下げられてしまう。

 こうなるともう、壁に何か読めるものが貼ってなければ、持参の品を読むしかない。という訳で、月に一度は、外食をしながら、時には30分近くも免許証を熟読しているのだった。

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*1996年07月12日:有機溶剤攻撃


 数週間前から、社屋の外壁の塗装工事が続いている。(とは言っても、梅雨の時節ゆえ、作業が休みの日の方が大分多かったが。この時期に塗装工事をやるという発想が、そもそも謎ではある。)ようやく梅雨明け?なのであろうか、快晴の日が続き、遅れを一気に取り戻すべく、作業のピッチが上がっている。

 今日は、社内の同じフロアの試聴室に有機溶剤の臭いが立ちこめ、問題になった。いよいよ本格化している塗装作業の影響である。無論、エアコンの吸入口から塗料や溶剤(の臭い)が入り込まないよう対策されているのだが、この試聴室に入る経路だけ、対策が洩れていたらしい。試聴室のドアは開放され、使用禁止。また、試聴室に限らず、密閉されているはずの窓際からも(例えば換気扇などを通じて)悪臭が入り込む。多少のことは我慢しなければ仕方がない。

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*1996年07月13日:爽やかに晴れ渡った休日出勤日


 勤務先は週休二日なのだが、9月にある期末棚卸し休業日の振り替えで、今日は出勤土曜日である。

 素晴らしく晴れ渡った空の下、平日とは比較にならぬほど車の少ない道を走っていると、これから出社するというイメージにリアリティが伴わない。通勤に使っている国道257号線は、まっすぐ山奥あるいは浜名湖の景勝地へ向かう道なのである。

 まさか会社を通り過ぎて、どこぞに遊びに行く訳にも行かない。出社してみれば、前日から続いている有機溶剤攻撃は、いよいよ苛烈で、休憩室も使用禁止。この部屋は給湯室も兼ねているので、コーヒーを入れに入ったら、もはやほとんどガス室状態である。

 中庭で集中的に塗装作業が行われているので、中庭に面している休憩室に有機溶剤の異臭が立ちこめているのだが、前日は試聴室のドアを開放していたのに対し、今日はこの異臭が廊下(及び別の部屋)に流れたらたまらんとばかりに、ドアを閉じてしまっているのである。屋外の作業現場は、まだ良い。快適な風がガスを吹き飛ばすから。換気もされぬままに閉鎖された休憩室のドアを開けると、そこは“ほの白くけぶっている”のである。有機溶剤、あるいは塗料のガスだ。数秒間で目が痛くなる。洒落にならん。

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*1996年07月14日:「ブッダ」再調査


 東名ハイウェイバスで上京。目的は、現代マンガ図書館での、手塚治虫と吾妻ひでおの初出誌調査である。

 ハイウェイバスは、浜松駅前8時5分発、霞ヶ関(地下鉄入り口)12時4分、東京駅12時15分着である。私はいつも霞ヶ関で降りる。渋滞に巻き込まれると1時間近く遅れることもあるが、今日はすいていて、10分早く着いてしまった。

 料金は新幹線の丁度半額の3700円。東京に午前中に着いても仕方の無いことが多いので(例えば現代マンガ図書館は12時開館である)、これは非常にリーズナブルである。逆に朝一番に東京に着きたいとき(例えば9時半開館の国会図書館で大量の調べものをしたいとき)は、東京駅8時25分着のひかりを使う。午前中の3時間を3700円で買うわけだ。

 私は、このバス旅行が好きである。車内販売の来ない静かな空間で、文庫本を片手に、時折惰眠を貪りつつ、車窓風景を愛でる旅が。

 「ブッダ」の初出誌に関する前回の調査は、あまりにも中途半端であったというか、これほどまでに組み替え/再編集が行われているとは想像していなかったので、出直すべきだと判断して途中で調査を打ち切っていたのだ。今日は再調査。全集版と照合しながら、(前半の初出誌である)希望の友を読み進め、全14巻中、8巻め位まで調査がすんだ。原稿の順序の差し替えや描き直しが著しいのは、序盤の数巻のようである。もうあと1回の上京で、残り全巻のチェックが完了しそうだ。吾妻ひでおの方は、どちらかと言えばついでのチェックであったのだが、完全に見落としていた作品(その作品の存在は知悉していたのだが、何かの勘違いで、国会図書館にも現代マンガ図書館にも初出誌なし、と判断していた)を2編発見。その他の新発見も1編。これは望外の収穫であった。

 閉館より1時間以上前に敢えて引き上げ(手塚治虫に関しては、どうせ長期戦になるので、ここで急いでチェック冊数を稼いでも仕方がないのだ)、久しぶりに秋葉原へ。ベルリオーズとシベリウスを中心にCDを15枚ほど仕入れるが、いつになったら聴けることやら。19時45分のこだまで、浜松に帰る。

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*解説


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 14 1996 
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