少年探偵ロック・ホーム


*少年探偵ロック・ホーム
*蜘蛛島の巻

 探検家だったおじいさまがガラパゴス島から持って帰ってきた亀の甲羅の裏に、暗号が隠されており、それを解いて、書棚にあった探検記録の中から、大蜘蛛のミイラを発見した。ガラパゴス島から連れ帰って来た土人(黒人)の召使い、エドワードを引き連れて、探検記録に記されていた孤島へ宝探しに出かけるロック。目当ては、その孤島の住民が命より大切にしている怪神像だ。

 無数の大蜘蛛が蠢いている島であった。エドワードが原住民たちにミイラを見せると、敬われて王様にされるが、ロックは牢獄に入れられてしまう。翌朝、脱出したロックはエドワードと共に、怪神像の元へ。この神像は吠えるので恐れられているのだが、なんのことはない、海辺に立っているので、海水が流れこんで来る音がゴボゴボ聞こえていただけである。そして神像の中には、濾過された塩の結晶が積もっていた。村人たちは、この塩を宝のように大切にしていたのだ。これが宝の正体だったのである。島から逃げ出すふたり。エドワードも、こんな島はまっぴら。「これでもわしゃ文明人ですからね」。

*海流発電の巻

 プラトン博士からロックに電話。今夜、ボロー博士の邸宅で仮装舞踏会が開催され、プラトン博士も招待されているのだが、プラトン博士が発明した「海流発電」の秘密を狙う「黒十字」の手先が紛れ込んでくるかも知れないので、変装して応援に来てくれんか、とのこと。

 プラトン博士と、おきゃんな娘のロミーを出迎えたのは、ボロー博士の家のロボットのメイド。しかしそこにいた「ボロー博士」は、実は黒十字の手先が変装していたのだった。「仮装舞踏会」自体、でっちあげだったのだ。プラトン博士は、ロミーを人質に取られて脅迫されるが、実はその「ロミー」は、ロックの変装。(変装合戦である。)形勢逆転するも、停電で逃げられてしまったが、脱ぎ捨てられていた「ボロー博士」のマスクには、空気穴が開いていなかった。

 南半球の海底の秘密基地。飛行機で接近するロックたちを、怪力線が迎撃する。海に墜落したロックは捕虜となり、自白剤入りの葡萄酒を飲まされて「海流発電」の秘密を喋ってしまうが、敵のマヌケな見張りにあべこべに自白させて、黒十字の首領が(どこからか無線操縦されている)ロボットだということを知った。脱出したロックの策略で、敵が作っていた「海流発電」装置は作り方を間違え、装置は壊れて、秘密基地も水浸しになる。ロックがとらえた首領の素顔は、ボロー家のメイドロボット。ボロー博士に変装したマスクが、ぴったりと合う。

 ボロー博士の家。ロックは博士を追求し、ロボットを操っていた操縦機を証拠として押さえ、逮捕する。黒十字の正体は、ボロー博士だったのだ。

 黒十字の正体に関するどんでん返しが、二回ある。(さほど効果的では無いとは言え)ロボットを起用している点といい、当時(1950年前後)のミステリ漫画としては、なかなか斬新で刺激的だったのではあるまいか。

*電気ボールの巻

 野球の試合。ピッチャーはロックである。敵チームのバッターの打ったファウルヒットを、黒メガネの観客がロックに投げ返すが、それをキャッチしたロックは、電気ショックで倒れてしまう。ボールがすり替えられていたのだ。黒メガネの男の正体は、電気会社のドル。リモコンで電気ショックを発するボールとすりかえて、贔屓のチームに勝たせようとしていたのだ。

 ここまで突き止めたロックは、ドルを彼の勤務先の電気会社の社長のもとに引っ立てて行くが、社長にねじ込んでいる間に、電気イスのショックをあびて伸びてしまう。ここは何もかも電気仕掛けであり、会社ぐるみで悪事を働いていたのだ。更に、この悪徳会社は、この会社に不利な審議をしている議会の絨毯からイスから机まで電気仕掛けにすり替えて、電気ショックの一撃で、議事をストップさせてしまう。ロックは、電気ショックのリモコンを奪うと、社長室の絨毯から体を離し、(壁の時計にぶら下がって、)社長以下の社員の一味に、電気絨毯の電気ショックを浴びせて、形勢逆転。

*ニシキヘビの巻

 動物園のニシキヘビのエサにされようとしていたウサギを助けた、プラトン博士。娘のロミーに頼まれたのだ。その夜、娘がヘビにさらわれる夢を見た博士。起きてみたら、正夢だった。ロックの出番だ。ヘビが好き勝手に檻や人の家に出入りするもんじゃあない、何かカラクリがあるに違いない。動物園を調査すると、ヘビ使いの黒人は、体に油を塗った白人だった。同じ油が、プラトン博士邸にも残されていた。こいつが誘拐犯だ。ヘビを使って誘拐したのだ。 察するところ、プラトン博士の発明した「時限爆弾」を狙う陰謀団か。しかしロックは、罠にかかって捕えられ、人喰いヘビの檻に入れられてしまう。

 一方、さらわれたロミーは、陰謀団の裏をかいて、自分の居場所と、時限爆弾が狙われていることを、博士に知らせることに成功する。博士は時限爆弾を隠そうとするが、どこかに紛失してしまっている。逃げ出したロミーとウサギは、ヘビの檻の中のロックを救出するが、ヘビは檻から這い出して追いかけてくる。このヘビは、ロックたちを待ちかまえていた陰謀団の悪者たちをも蹴散らしてしまい、おかげで、かけつけた警察によって、陰謀団は一網打尽となるのだが..どうやら、このヘビが、時限爆弾を飲み込んでしまったのだ。ヘビの中から、コチコチ音がする。殺すどころか、ショックを与えただけで、町が消滅する。そうでなくとも、一時間後には爆発する!

 爆弾は鋼鉄製だと知ったロックは、強力な電磁石を積んだ飛行機を手配し、この飛行機に、腹の中の爆弾ごと吸い付けられたヘビは、海上に運ばれて海に捨てられ、そこで大爆発をする。


 言うまでもなく古い作品であり、今の目から見ると、極めて素朴な科学ミステリだが、既に「ロストワールド」や「メトロポリス」は発表されていた。敗戦後まもない、当時の子どもたちにとって、どの程度新鮮であったのかは、推測するしかない。例えば、プラトン博士の、絞めの言葉。

「時限爆弾は、鉱山などで大いに役立つものなのじゃ」
「だがな どんな発明でも、その使い方によって、世界を幸福にしたり不幸にしたりするのじゃよ」

 今となっては、あまりにも当たり前の言葉であるが、1950年当時、こういう認識がどの程度一般的だったのだろうか?

*くるったジャングル

 アフリカの原始林の中に、大きな火の玉が降ってきた。新型爆弾の試験爆発かも知れない、と驚いた原子力委員会は、ただちに調査員(ハム・エッグ)を派遣する。

 昆虫学者という名目で現地を調査し、山へ入って行くハム・エッグ。一方、村の中の診療所では、日本人の医師親子が、村人たちの診察をしていた。

 そこに、とんでもない病人が。山からかつぎ込まれてきたハム・エッグだ。片手が異常に巨大化していた。聞けば、ハチに手を刺されたのだという。医師とその息子は、そのハチを捕らえるために、防護服を着込んで山に入る。

 異常な植生。動物も異常だ。かぼちゃのように巨大なハチの巣。そのハチたちに襲われるが、防護服によって、事なきを得る..が、そのハチを食べた鳥に、異常が発生。以下、連鎖反応的に、植生やそれを食べた動物、さらにそれを食べた動物に、部分的な巨大化という異常が、現れる。人間にも..この異常の原因は、地球上のものではない「バイ菌」であったのだ。恐ろしい伝染病だ。あの大きな火の玉は隕石であり、それに未知のバイ菌がくっついて来たのだ。あのハチは、隕石の上に止まって、バイ菌を巣に持って帰ったのだった。

 ジャングルの中で再びハチに襲われ、(もう一方の手も巨大化して)身動きがとれなくなってしまったハム・エッグは、医師に、「帰ったら、委員会にいいなさい。戦争とか爆弾とかに気をもんでるより、病気を心配したほうが、よっぽどましだ……」と、諭される。

 極めて素朴なSF。ハム・エッグが(悪役ではあるが)私利私欲のためではなく、自分が属する(悪の組織ではない)「原子力委員会」のために働いているところが、珍しくもあり、爽やかでもある。

*氏神さまの火

 その村には、「氏神さまの火」の伝説があった。年に一度、お祭りの夜にしか現れず、その火の場所に行っても、何も燃えていないのである。氏神さまのお使いのキツネ火なのである。これを、「お火渡り」と呼ぶ。

 村に、学術調査団が入った。団長は、花丸博士。この現象を科学的に解明するためにやって来たのである。迎え撃つ村長は、ヒゲオヤジ。全く気に入らない。尊い氏神さまのお火を調べるなんて..それに、村の人気にもかかわる..

 調査団(花丸博士)を呼んだのは、村の小学校の先生であった。彼は、この怪火は、調べてみれば案外つまらない現象ではないか、と、予想し、この夏休み中には、小学校の子どもたちにも、大いに調べさせよう、と考えているのであった。

 先生は、小学校で、「お火渡り」の由来を、生徒たちに質問する。その答えは、「役人に追われて、この村に逃げ込んできた偉い殿様を、山の中で娘がかくまい、追っ手をやり過ごしてから山を越すために、キツネたちが火をともして見送ってくれた(つまり、かくまってくれた娘も、キツネだった)」というものである。以来毎年、その殿様がやってきた日には、山じゅうにキツネ火がともる..しかしそのキツネ火を、実際に確認した子どもは、いないのであった。


「では、夏休みの宿題はそれにしましょう」
「伝説でもいい、科学的な観察でもよろしい。とにかくお火渡りについて、何かひとつ調べてくること」

 三太と(村長の娘の)おせんちゃんのコンビは、実際に山にのぼって調査し、古い文献にも当たった。花丸博士の助手のチック&タック(凸凹コンビ)は、氏神様の神主さんに質問して、罰当たり者め、と、追い返されてきたし、三ちゃんとおせんちゃんも、村長の土蔵から本を持ち出していたところを村長にとがめられ、村長は先生に、お火渡りをけがすことはやめなされ、「お光り村」の名を衰えさせる、と、ねじ込む。先生は、しょげているおせんちゃんを、「いいよいいよ、きみのおとうさんの話にも、理屈があるよ」と慰める。

 そのふたりが土蔵で見つけてきた「お光神社由来」によると、神社は(キツネではなく)村人が建てたのである。あの伝説とは食い違っている。さらにふたりは調査を続けた結果、昔、お殿様が来たのは本当だが、彼を助けたのはキツネではなく村人だったのだ、ということを突き止めた。どうやら、お殿様の伝え話とキツネ火は、関係無いようだ。

 いよいよ調査も佳境である。花丸博士は、三太とおせんちゃんのふたりに、大きな光度試験用の電灯をかついで、山に登ってもらう。その頃、お火渡りが現れた。山の中腹に横一線に現れた、見事なものである。博士たちは観測を開始する。地上の温度と火の見櫓の上の温度。(かなり違う。)望遠鏡による火の形の観測。(ぐにゃぐにゃしている。)スペクトル分析。(ろうそくの火と同じ結果。)そして、ふたりが担いで行った電灯が見えてきたが、望遠鏡で見ると、やはりぐにゃぐにゃしていた。その頃、山の麓を歩いていた二人は、月が三つも出ているのを発見して、キツネのしわざだ!と驚いて、逃げ帰ってきた。

 雨。祭りは中止。観測結果を分析する博士たち..翌朝、結論は出た。蜃気楼なのだ。大きな気温差によって、山の麓に並んでいたちょうちんが、お火渡りとして、山の中腹に浮かんで見えていたのだ。(月が三つも見えたのも、光の屈折のためである。)

 祭りは雨天中止になったが、先生たちは、お火渡りは「日延べ」になった、として、翌日の夜、もう一度、ちょうちんを並べてもらったところ..見事に、お火渡りが出現した。大喜びする村人たち。先生は村長に、これから夏であれば、ちょうちんさえ飾れば、お火渡りはいつでも現れますよ、と説明する。じゃあ、これからは年に5〜6回、お火渡りしてもらって、もっと見物人を増やそう、と、村長。村人たちにはお火渡りの正体を告げずに、博士たちは去って行く。

 初期の傑作のひとつ。科学的な視点は言うまでもないが、先生の課題の与え方(「伝説でもいい、科学的な観察でもよろしい」)の素晴らしさが、忘れられない。科学的な調査と、神話・伝説を探っていく人文的な調査を、対等に扱っている。こういう理想的な教師は、恐らく、当時としても多くは無かったのだろうが..今(1999年)と当時(1950年)のどちらが、より、理想的な(優れた)教師の割合が多いのだろうか?

*村の踊り子

 村に、「神さまのお使い」がやってきた。一人暮らしをしているおばあさんの家に、(町からやってきたと思しき)「神様御一行」が上がり込んで占領し、踊る宗教の本拠地にすると、徐々に信者の数を増やしていった。農家も商店も仕事をうっちゃって、昼間から踊り狂う。もはや尋常な事態ではない。小学校の先生が収拾に乗り出すが..

 おばあさんの家の柱は、シロアリに食われていた。この家で踊ると危ないぞ、と、先生は教祖に警告するが、もちろん聞く耳は無い。そして大勢の信者を家に上げて踊り狂った日..案の定、柱は折れて、倒れてしまった。村人たちの宗教熱も冷めた。

 宗教ネタではあるが、気楽に読める。漫画的な軽妙な風刺の見本。

*足あと温泉

 二幕からなる、戯曲形式の作品。舞台は深い山間の谷底の、温泉である。

*第一幕

 偶然、この谷に迷い込んだふたりの樵(きこり)、田作と利助は、温泉に鹿が入っているのを見つける。いい湯加減だ。動物が入っているということは、薬になる温泉なのだろう。親孝行な田作は、足の立たない病気の母親を連れてくる。一方、欲張りな利助は、ふたりで一稼ぎしようじゃないかと、田作にもちかける。動物なんか追っ払って、温泉場にしてしまおう! 反対する田作は退場。動物たちも退場。

 利助は村の衆をつれて来て、温泉を深く広くするために掘り始めるが、動物たちが見つめている。そういえば、利助の家の裏で、動物たちが鳴き騒いでいたっけ。利助が彼らから湯を取り上げた、という事情が判ってきた村人たちは、(動物たちに気兼ねもするし)とばっちりはごめんだと、帰ってしまう。利助はひとりで掘り続ける。翌朝、田作と村人たちは、温泉に利助がいないこと、そこから足跡が山の中まで続いていること、その先で利助が(何故か)死んでいることを発見した。欲張りすぎるからだ、と、田作と村人たちは、温泉を動物たちに返して退場する。

*第二幕

 百年後。この谷に迷い込んだ青川と黒田は、(100年前の樵たちと同様)温泉を発見する。けものの足跡が入り乱れているところを見ると、動物専用らしい。早速分析を始めた青川は、顔色を変えて、深い所へ放射能測定へ行く。黒田は金鉱と勘違いするが、青川は、深いところを誰かが掘り返したあとがあり、そこから、恐ろしく放射能を出す鉱石が覗いている、と、警告する。

 黒田は、青川の説明にも耳をかさず、この温泉には金鉱があり、青川はそれを独り占めしようとしているのだと思いこんで、深夜、ひとりで密かに金を発掘に行くが..帰ってこない。捜しに出た人々は、彼が倒れているのを発見した。深みにはまり、何か金ではない鉱石を踏みつけてしまったのだ。それはウラニウムの原鉱石だった。手遅れだ。欲はウラニウムよりも恐ろしい..


 同じパターンのエピソードを、時を隔てて繰り返す、という構成。猛毒としての「ウラニウム」だが、掘り返さず、地面(温泉)の底に、地中深く埋めておけば、体に良い「ラジウム温泉」として、動物や人間の役に立つ。初期の素朴な原子力ネタ。

*カノコの應援團長

 おてんばカノコは、学芸会に主役で出演するために、兄から応援団長の服を強引に借り出す。学芸会も野球の応援も、今日が本番。応援団の団員たちが団長(兄)を呼びに来るが、服がなくっちゃ仕方が無い。団員たちは、学校の学芸会に、カノコが着ている服を取り返しに駆けつけるが、彼女が出演している芝居が終わった頃には、もう自宅まで戻っている時間が無くなっていた。そこでカノコは野球場まで拉致され、兄の変装として風船のごとく着膨れて応援団長のフリをするが、フラフラになるわ、会場から逃げ出したところを不審人物としておまわりさんに追いかけられるわ、先生に絞り上げられるわで、もうさんざん。帰宅したら帰宅したで、一日中、服も無しに下着姿で震え上がっていた兄が、おかんむり。

 ごく軽い作品。まるで長谷川町子のようだ。兄が全く何一つ活躍しないのが、物足りない。

*凸凹牧場

 キツネとタヌキの凸凹コンビが、が西部で活躍?する連作である。

 職も無しに腹を空かせて放浪しているふたりの前に、カウボーイの求人が。但し、定員はひとり。友情もへったくれもなく、争うふたり。ふたりで一人前ということで二人とも雇われたのはいいが、満足に馬を集めることも出来ず、煙突掃除と皿洗いに回されるが、お互いに足を引っ張り合ってばかり。大騒ぎしているうちに馬泥棒が入り、牧場の馬は、全部盗まれてしまった。喧嘩をしている場合じゃない。

 馬に化けて泥棒たちにわざと捕まったふたり。はなから見抜かれているのだが、ドジが幸いして?大逆転の大暴れ。泥棒一味を一網打尽にする、という大手柄。もう喧嘩はしませんよ、というふたりに、どちらか役人になってくれないかね、というご褒美が出て、また、俺がなる!と、大喧嘩。

 二人平等に手柄を立てたんだから、褒美の出し方が、意地悪だってば。[;^J^]

*凸凹剣士

 凸凹コンビ、今日は釣りである。例によって他愛もない喧嘩をしているうちに、海底から、宝の箱をつり上げてしまった。中味はなんと、ウサギの王女さま。悪者大臣に贋物呼ばわりされ、城を奪われ、箱詰めで海に捨てられたのである。そうと聞いては、手助けしなくては!

 王女様の国の城下に乗り込む3人。タヌキのポコちんはキツネのデコちんを出し抜いて、悪者の大臣と決闘するが、相手の「予定外」の強さにさんざんな目に遭わされ、牢屋にぶち込まれる。一方、デコちんも、結局同じ牢屋へ。王女様は、再び大臣の手に落ちるが、ここで牢屋の中のふたりが機転を働かせる。牢屋の中のポコちんは王女に化けると、本物の王女はここにいるぞ、大臣に牢屋に押し込められているぞ!と町行く人々に叫ぶ。うろたえた大臣は、そいつは贋物だ、本物はここにいる!と、思わず、自分の手の内の(本物の)ウサギ王女を指してしまう。悪事が露見した大臣は、ふたりに戦いを挑むが、磁石を使った機転でやっつけられる。

 ご褒美である。これはから絶対に喧嘩しません、というふたりに、「どちらかひとり、騎士にしてあげます」。またしても大喧嘩。

 だから、褒美の出し方が。[;^J^]

*ほろ馬車くん

 引っ込み思案のジニーは、花を愛し育てる、優しいカウボーイ。その友人で、がむしゃらなトニーは、彼の優しさを笑う。今日も今日とて、ほろ馬車の旅が始まる。マーガは、乱暴なトニーにも、勇敢じゃないジニーにも、なびかない。その間、インディアンたちにも、ほろ馬車隊が持っている砂金を狙う悪者たちにも、キャラバンの位置が知られてしまう。

 喧嘩分かれをするトニーとジニー。そこへ、インディアンの襲撃と悪者たちの襲撃が重なり、トニーが連れてきた警備隊はインディアンをけちらし、ジニーは悪者たちを退治する。

 翌日、トニーは幌馬車隊と共に旅立ち、マーガはジニーと共に残る。素朴な三角関係の物語。

*13の秘密

 ごく当たり前のことの、うっかりした大間違いは、目に入らないことがある..

 ある国の教会の塔の上の時計には、もはや誰ひとり目を向けるものも無いのだが、その塔の上で、全市民の目の前で、王子が狙撃された。凶器の銃が発見され、グロッキー氏が購入した銃である、と、同定された。グロッキー氏には犯行時刻の11時のアリバイがあった。一方、時計台の時計は狂っていない、と、時計番が証言した。

 少年探偵ロックと助手の大介。大介の腹時計と合わないことを発端に、時計台の時計が狂っていることが明らかになる。無論、時計番の老人は、そんなことは認めないが..3人で時計台を調べに登ったら、なんと、文字盤が盗まれていた。その場に隠れていた賊を発見。大立ち回りの末に彼をつかまえ、ロックはトリックを解明する。時計の文字盤には、目盛りが13あった。「12時」に合わせても、一見して「11時」に見える。つまり、遠くから見ると、12時が11時に見えるのだ。王子が狙撃されたのは実は12時であったが、下から見上げた群衆は、ひとり残らず、それを11時として認識したのであった。アリバイは崩れた。犯人は、もちろんグロッキー。

 ミステリとしては、無理が有りすぎる。王子が狙撃された時、誰ひとり腕時計を見なかったのか? 作者の署名が「牛塚治虫」という(ごく当たり前のことの、うっかりした大間違い、という)オチが付いている。

*まぼろしの円盤
「みなさん! 地球はねらわれている。火星からの円盤群は人類が戦争でつかれはててしまうのを待っているのだ! 世界よ! 団結すべきである!」

 火星軍との戦闘を想定した地球連邦軍の演習が、今日もダイノソールス島で行われている。見学しているロックは、どうも腑に落ちない。仮想敵としては、火星はあまりにも曖昧である。生物がいるかどうかもわからない。円盤だって、火星から来た物であるという証拠は無い。なのに、この大演習..「火星からの敵」とは、世界的物理学者のポロフ博士が発表したことである。

 そこに、円盤群、現る! これは演習ではない! しかし円盤群は、姿を消してしまった。

 ロックは、博士に面会し、問い詰める。火星には高等生物などいないのでしょう? ポロフ博士が、ひと月前に、円盤の正体は火星からのものである、と発表し、世界のおもだった科学者たちがそれに賛成して、世界連合国ができ、地球連邦軍の大演習が始まったのだったが..

 ポロフ博士は、もちろん、火星には人類がいると信じている、と言明するが..ロックは、博士の態度に不審な点を発見した。博士は昨夜は出かけなかったと言うが、靴には演習場と同じ赤土。そして演習場には博士の足跡。それも深くめり込んでいる。何かを運んだ跡だ..博士の自動車の中には、特殊な機械が。それを見られた博士はロックを殺そうとするが、取り押さえられる。その機械の正体は、空中幻灯機。まぼろしの円盤を作りだす機械だ。

 真相は、こうだ。世界平和をもたらすためには火星の名を使うしかない。火星から攻めてくると知ったら、きっと、お互いの諍いはやめるだろう、と考えたポロフ博士は、全世界の科学者たちに協力をもとめ、円盤のトリックを秘密裏に進めたのだ。火星には人間なんかいないのだ。しかし、ロック君、火星人は、いることにしておいてくれ。そのあいだは、地球は平和なんだ..

 そして、ロックを殺そうとした償いとして、ポロフ博士は、演習場の中に車で走り込んでいった。恐らく、流れ弾に当たって、死ぬだろう..

 力作である。冒頭に引用したポロフ博士の演説から始まる構成も力強く、僅か8頁の短編とは思えぬほどの、充実した読後感が得られる。架空の外敵を捏造して、強制的な平和をもたらす、というパターン。

*フォード32年型

 機械にも「意識」と「人格」がある、童話的な世界。(いわゆる「ロボット」ではない。)

 ポンコツのフォード32年型タクシーは、小さくてスピードも出ないので、もはや全然相手にされない。たまにお客を乗せても、エンジンが回らなくてお客に押してもらったり、ドアが開かなくてお客を閉じこめたあげく、スプリンクラーが暴走して水浸しにしてしまったり。稼ぎもないし、これはもうスクラップだな、と、引導を渡される。

 その夜、街角に止まっていたフォードの中に、銀行強盗たちが乗り込んできたが、ドアが開かないのが幸いして、ギャングたちは捕まる。少年探偵・ロックは、フォードと相談して、スクラップにされない工夫があるよ、と、彼を活躍させることにする。

 その頃、ギャングの親玉たちは、幼稚園を襲撃していた。大金持ちの子をさらうためだ。そこへフォードが暴れ込む。ギャングたちは幼稚園に放火するが、フォードは自分の中に園児たちを乗せると、スプリンクラーの水を浴びせて、火の外に走り出す。園児たちは、火傷もせずに助かった。水浸しになったフォードは、丸焼けの廃車となってしまったが..しかし彼は、スクラップにはされなかった。「子どもをすくったゆうかんなる車」として、交通博物館に陳列されたのだった。

*宇宙狂想曲

 プロローグ。神様が人間を創ったとき、武器になる爪も羽ももっていないので、他の動物たちが笑ったが、神様は、羽がなくてもやがてすぐに武器をつくるし、空も飛べ、宇宙の果てまでも飛んでいくだろう、と、動物たちをいさめる..


*第1話「昔むかしの物語」

 ガリレオ・ガリレイの物語である。その年、大彗星が現れて、人々を恐れおののかせていた。研究を続けるガリレオを逮捕しにきた、法王庁からの司直たち。彼らの手を逃れて隠れ家に身を潜めたガリレオは、もっとも重要な研究記録をパリの出版業者のニクラウスに届け、その地で出版してもらうべく、ヤギのメルに、これを託す。メルが脱出するのと入れ違いに役人たちが急襲し、ガリレオを逮捕する。

 メルの旅は困難を極めた。石もて追われ、川を流されるところを、ある貧乏な農家の子どもたちに助け上げられるが、その家のおかみたちに、食われそうになる。しかし、背中にくくりつけていた紙(ガリレオの研究記録)が、無学な者たちには悪魔の書としか見えなかったので、火あぶりにされることになった。子どもたちはメルを逃がし、メルは、狼たちと戦いながらも紙を守り、ひたすらパリを目指す。その頃ガリレオは、宮廷の宗教裁判で責められ、ついに拷問に屈したが..「しかし、地球は動くのだ…」。

 パリについたメルは、重要文書を背負っている、と睨まれて追われ、ついに、その紙を自分の腹の中に収める。そして、ニクラウスのもとに駆け込むと、彼を襲って、自分の腹を切り裂かせる..メルは、ついに、ガリレオの研究記録を届けることに成功したのだ..

 法王庁は憂慮していた。大彗星は、まだ消えない。ガリレオが、呪われた学説を広めたからだ! そこに、パリで秘密出版された「地動説」が届けられた。大僧官の怒り。その時、大彗星は、安心したかのように遠のき始めた。ガリレオが変節したからか。あるいは、「地動説」が出版されたからか..

 メルの墓参りをする、ガリレオとニクラウスのエピローグ。

*第2話「199X年 火星の上にて F特派員発」

 日本の火星探検隊に同行した特派員からの発信である。4ヶ月の旅の末、ついに火星は、日本人の手によって征服された! 国旗掲揚、国歌斉唱。

 そのとき、妨害電波が。カタロニア連邦探検隊が火星を征服した、という放送である。憤懣やるかたない日本隊は、カタロニア隊との交渉に出向くが、カタロニア隊はロボット隊をよこした。ロボットたちは、火星は先に征服したカタロニアのものである、すぐに立ち去れ、と要求する。武力(腕力)では敵わない。日本隊は一計を案じて、ロボットたちを泥沼に誘い込む。ロボットたちは沼の底に沈んだが、泥の底から銃撃してくる。こうなったら、戦争だ!(学術調査研究隊だったのに..)そして、カタロニア隊も日本隊も全滅する..

 そこへ、火星人からの放送。隠れて様子を見ていた彼らは、火星と火星人の未来について、少しも心配していない、とうそぶく。火星は、絶対に占領されない。地球人同士争って、全滅するに決まっているからだ、と、火星人たちの高笑い..



 ちょっと異様な力作である。

 これは、ホルストの組曲「惑星」にインスパイアされた作品であり、未完というより、失われた作品の断章なのである。「水星」「金星」「火星」「木星」「土星」と、5編描いたにも関わらず、出版社の事情でふたつしか発表されず、残り3編の原稿は紛失された、というのである。(作者によると、どちらかというと掲載されなかった作品の方に、出来のいい物があったらしい。)

 作者によると、“そもそもこの作品は、宇宙の過去・現在・未来を描くつもりで、「宇宙狂想曲」というタイトルそのものも、5つの物語を全部読んではじめてテーマと結びつくようにしたので、この2編だけを読んでも、その本質的なテーマは良く判らないかも知れない。その意味では「火の鳥」とも似ている”、とのこと。のちに「火星年代記」(ブラッドベリ)を読んで、「ぼくの描きたかったのはこれだ!」と思ったらしいので、これが「宇宙狂想曲」(の断片)を読み解くヒントになるかも知れない。第2話は、確かにブラッドベリを想起させる。

 ガリレオがガニメデ衛星を発見する第1話が、「木星」であろうか? 第2話は、やはり「火星」かな。しかし、第2話の最終頁が、異様である。この1頁大の大画面は、(姿を見せない)火星人たちの高笑いを背景に、雲を突き抜けて遙かな木星?に、「階段(架け橋)」がかけられている図のように見える。もちろん、幻想的なイメージ画なのだが..これが次のエピソードへの「引き」だとすると、「火星」の次が「木星」となる。(確かに、惑星の“順序”は、その通りだ。)しかし、第1話が「木星」だとすると、このエピソードは、第2話の“次”としては、話がつながらないように思える。第1話は、むしろ、全編のプロローグ的な内容である。それとも、作者も言及している「火の鳥」のような、時系列が錯綜している構成だったのだろうか..?

 謎の多い断章である..

 ふたつのエピソードは、テーマ的には、それほど独自のものではない。しかし、第1話は、ガリレオの研究記録を命がけで救った「ヤギ」の「殉死」が感動的であるし、第2話も、姿を見せない火星人たちの高笑いが、不思議な読後感を残す。トルソに過ぎないとは言え、傑作と言い切って良かろう。

 それにしても、なんという損失。失われた3エピソードが発見されたら、それこそ大発見となるだろうが..雑誌に掲載すらされず、1953年当時にコピーを取ったわけもないので、ほとんど半世紀を経て、この原稿が見つかる可能性は、限りなくゼロに近い..

 最後に、枝葉の事だが..第2話における、火星上での日の丸掲揚と君が代斉唱。(1953年当時としては全く自然な表現だが、今後(あるいは今でも)問題になるであろうか?)政治的判断を一切排除した、(死語であるが「ノンポリ的」な)美学的判断を書かせていただくと、こういうシーンで「日の丸」が掲揚されることに、違和感はない。地球上のあらゆる国家のあらゆる国旗中、もっとも「宇宙的」なデザインだからである。しかし、「君が代」には、非常な違和感を感じる。「君」が「代」に、「宇宙的」な要素がないからである。あれは、「地球」の「日本」の「神」を讃える歌だからである。


*手塚治虫漫画全集 381

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Dec 16 1999 
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