ミッドナイト 1

*ACT.1(第1巻 ACT.1)
夜はいろいろな顔をもっている
その顔をひとつひとつのぞいていく男がいる
その名をミッドナイト

 これが、作者の最晩年の傑作読み切り短編シリーズ(少年チャンピオン誌での、最後の連載)の、エピグラフであり、ライトモチーフである。

 ミッドナイトはタクシードライバー。ある夜、非常検問に引っかかる。10歳ぐらいの子どもが毒入りチョコレートをばらまいているのだ。既に船員会館で4枚回収されたというのだが..

 ミッドナイトは公園の中で、警官から聞いた通りの服装の少年を見つける。彼はカモメの墓を掘っていた。おびただしい数の墓を作っていた。廃油で死んだ鳥たちの墓である。孤独な少年のかけがえの無い友達の、墓である。

 少年を家まで送ろうと、タクシーに乗せたミッドナイトは、少年の家が肥料会社であることを確認すると、少年を下ろさずに走り続け、少年に語り続ける。

 毒入りチョコをばらまいたのは、おまえだな? 農薬を家の棚から盗んでチョコレートに仕込んだな? 重油を海に流した船員へのしかえしのつもりか? 船員なら誰を殺しても気がすむと言うわけか? 船員を何人殺しても、油は流れ続け、鳥たちはこれからも死に続けるぞ。

 そしたらまた殺してやる!と叫ぶ少年に、ミッドナイトは、ある“おとぎ話”をする。

 昔、ある暴走族がいた。彼はダチの女子高生を乗せて事故を起こし、その子は即死した..はずだったが、死ななかった。植物人間になったのだ。心臓は動いているが、脳は死んでいる。もう生き返らせることは出来ない。しかし彼には、彼女は必死に生きようとしているとしか、思えなかったのだ..少年の人殺しを思いとどまらせるための、ミッドナイトの“作り話”である..

 少年は..ぽつぽつと話し始めた。毒入りチョコは5個。4個は警官に見つかったが、ひとつだけ、ある船員が拾ってポケットに入れて歩いて行ったよ.. そいつの顔、憶えているな!と、ミッドナイトの追跡が始まる。

 船員たちがふき溜まる酒場。ミッドナイトは、少年にその船員を見つけさせると、彼に、ポケットの中のチョコレートを..と言いかけたところで、何故かその船員は怯えて逃げ出し、見るからに凶悪な仲間たちが、ミッドナイトをぶちのめしに来る。喧嘩慣れしているミッドナイトが彼らを叩きのめしている間に、例の船員はタクシーで逃走。なぜ逃げるんだ?

 信号無視! 高速へ突入! しかし、5番目の車輪が車体の真下から飛び出し、自在に車の姿勢を変え、階段すら昇り降り出来るなど、007そこのけの装備をしたミッドナイトの車を、カーチェイスで振り切れるものではない。

 ついに河原に追いつめられ、そこで待っていた仲間を全員、ミッドナイトの車に片づけられた船員は、諦めて3Kgの阿片を差し出す。(勘違いしていたのだ。)そんなものに用はないから、拾ったチョコレートを寄越せ。

 船員にタクシー代金を払わせ、“落ちていた”トランク一杯の金(麻薬の取り引きの金)を、警察に届けるために持ち去る、ミッドナイトと少年。この金は、一年後には俺達のもの、その半分はおまえのものだ。それを使って防波堤を作ってもらいな。そうすれば、油は流れてこないし、鳥も死なないぞ。一年後に会おうぜ..

 夜のムードと犯罪の香りに彩られた連作であり、その意味でブラック・ジャックを連想する人も少なくないはずだ。この第1話では、重要な伏線がいくつか張られている。

*ACT.2(第1巻 ACT.2)

 宮仕えはつらいもの。

 ある会社の社長が、早朝、空港から専務宅に緊急の電話を入れた。重要書類を忘れて来たから、40分以内に空港まで届けろ! その時会社に宿直していた研修社員が、専務からの電話で叩き起こさる。

 書類を抱えてミッドナイトのタクシーを呼び止めた彼は、入社早々の重要任務にまんざらでもない。これで雲の上の社長に、顔を憶えてもらえるかも知れないし..

 しかし事態は悪い方向に進む。ミッドナイトの車は、ある婦人−−急病の子どもを病院に連れて行く途中、車がエンストしてしまった母親に、呼び止められる。こちらも急ぐが、見捨てて行けるものではない。まず病院、次に空港だ。

 その病院には、手術の出来る医者はいなかった..119番は話中..大きな病院に行ってみれば、倒産していた..次の病院は、獣医..結局、消防署へ駆け込み、母子を救急車に乗せた。

 さあ、次は空港だ! もうとっくに、搭乗時刻は過ぎている。ミッドナイトは飛ばしに飛ばして、フェンスを破って滑走路に走り込み、離陸直前の飛行機の前に飛び出して、これを止めた。

 新入社員は、社長に書類を渡すことに成功した..が、解雇されてしまった。厳重説諭で済んだとはいえ、社名に泥を塗ったからである。ふてくされて飲んだくれている彼を探し出した、ミッドナイト。あの母子を連れてきたのだ。子どもは元気になった。深く礼をする母親は、私の会社で働いていただけないでしょうか? コンピューター会社のオーナーなんですけれど、できれば役員のひとりに?

 おそらく数百の類例がある、おとぎ話パターンであるが、それだけに心地良い。こんな無鉄砲な男を役員にしても、仕方ないんだけどね。[;^J^]

*ACT.3(第1巻 ACT.3)

 夜明け前、ミッドナイトが馴染みの店でラーメンを食っているところに入ってきたタクシー運転手。うかない顔をしているのは、猫をはねてしまったからである。ラーメンを食べて店を出るやいなや、彼は悲鳴をあげた。はね殺したはずの猫が、片脚をちぎられた姿で「一回り以上大きくなって」、入口の前にいるのだという! 化け猫だ! ミッドナイトらが出てみたら、もういない。その代わり、その運転手のタクシーの屋根に、血の海が。はねられた猫が屋根に落ちて、ここまで運ばれてきたのである。

 猫をはねた運転手が走り去っていったあと、店の隅に、脚が一本ちぎれた、大きな猫がうずくまっていた。ミッドナイトは応急手当てをし、ラーメン屋で飼ってやれ、と、6ヶ月分の養育費を払う。

 その“猫”は、オオヤマネコであり、「トン骨」と名づけられた。ラーメンが好物の、ひとなつっこい3本足の「トン骨」は、ラーメン屋のアイドルになる。

 しかし、どんどん体格が大きくなるに従って、オオヤマネコは野性を取り戻して行く。周辺の寺や家で飼われている、鳩や小鳥や兎や鶏、そして飼い犬たちが、次々に食い殺されて行く。「トン骨」の犯行だ。ミッドナイトは、そう確信した。オオヤマネコは猛獣だ。飼ってやれと言ったオレが間違っていた。客を襲う前に手放せ。オレが遠くまで運んでやるから..

 もちろん、情の移っているラーメン屋のオヤジは、聞き入れない。しかし、「トン骨」をはねて3本脚にしたドライバーが、久しぶりに店を訪れた時、「トン骨」は、彼に飛び掛かり、喉を食い破って逃走したのである。

 ミッドナイトは、「トン骨」が逃げ込んだと思しき寺の境内に乗り込み、「トン骨」の好物のラーメンで、彼をおびき出す。お前はただ復讐しただけだが..見つかれば殺される。死に掛けていたお前を一度は救った。もう一度助けてやる。遠くに逃がしてやる..

 待ち受けるミッドナイトの前に、「トン骨」の巨大な姿が! 化けた!? 思わずナイフで切り付けたミッドナイト。しかしそれは錯覚。夜の闇の中で、距離感覚が狂ったのだ。「トン骨」は彼に、すり寄ってきただけだったのだ。「トン骨」の血の跡は、巨木の上へ..夜が明け、ミッドナイトは、「トン骨」が生き延びることを祈って、その場を去る..

 3ヶ月後、オオヤマネコのミイラ化した死骸が、その巨木の上で見つかったというニュースが、流れた..

 非常に良くまとまった、動物復讐譚の佳作。

*ACT.4(第1巻 ACT.4)

 恰幅のいい紳士を乗せた、モグリのタクシードライバー、ミッドナイト。紳士は、とあるおんぼろアパートの前で車を止めさせ、重たいトランクを持って、貧相な男の部屋の戸をたたく。

 その貧しい男の名は、土田。恰幅のいい紳士は、かつて土田の部屋に押し入り、説教をされて帰った泥棒だった。15年前、土田は、泥棒をビールでもてなした上、銀行を信用せずに畳の下に貯金していた、日雇いで稼いだ全財産の10万円を、彼に持たせて帰したのだった。改心した泥棒は、その10万円を元手に15年間働き、今では大勢の従業員を雇う、会社社長にまでなっていた。今日は、15年前に預かった10万円と、その利子を返しに来たのである..そう言って、紳士がトランクを開けると、中にはぎっしりと札束が! 仰天した無欲な土田は、こんなものは受け取れない、と、返そうとするが、紳士は無理矢理押し付けてアパートを出、待たせていたミッドナイトの車で走り去り、車中、ミッドナイトにも、これまでの一部始終を打ち明けるのだった。(既に時効なのである。)

 美談である。ここまでは..

 ミッドナイトがラジオのスイッチを入れると、銀行強盗のニュース。5千万円強奪である。

 ところでお客さん、靴にコールタールがついてるね? 舗装したてで乾いていない道を、慌てて通ったね? あの銀行の前は、一面舗装したてなんだが..あのトランクの中味は、5千万円じゃないかね?

 ミッドナイトは、乗せた客の、職業も性格も過去も、勘で判るのである。

 うまい隠し場所だ。土田の部屋ならば、関連の判らぬ警察には絶対に見つけられない。土田は決して銀行に預けず、自分の部屋に置いておくだろうから、ほとぼりが冷めてから、もう一度、あの部屋に押し入って、取り返せばいい..図星だろう?

 改心した泥棒どころか犯行ほやほやの銀行強盗は、逆上してミッドナイトに銃を突きつけるが、ミッドナイトの改造車の(007真っ青の、非常識な [;^J^])メカにかなうわけが無く、車外に放り出されて、大怪我をして気を失う。

 ミッドナイトは銀行強盗の財布から、通常料金の10倍プラス深夜料金、迷惑料としてさらに5倍、それに電話代10円を加えて抜き取ると、110番。銀行強盗の主犯らしき奴が倒れているぜ。

 2〜3日後、土田の部屋に警察がやって来る。銀行強盗が金の隠し場所を、自供したのであろう。しかし土田は、既に部屋を引き払い、ミッドナイトの車中にいた。ブラジルに“帰る”ためである。

 彼は幸せだった。17年前、ブラジルの農場で詐欺に会い、それまでに貯えたものを全て騙し取られて、一文無しになって日本に帰って来た土田は、紳士的な泥棒のおかげで、ブラジルへ戻ることが出来るのである。彼は、銀行強盗のことなど、全く知らない。泥棒の言葉を頭から信じて、故国・日本には、仏のような人もいるのだ、と、心から感謝して、離日して行くのだった..

 ACT.1同様、正直者が(ミッドナイトの手助けで)悪党の金を頂戴する、というおとぎばなし。この金が、そんなに都合よく、彼のものになるはずは無い。例えば土田が手に入れた5千万円は、銀行の正当な財産なのである。が、これは漫画なのだ。漫画だからこそ、このような瑕瑾は問題にならない。小説だと、こうはいかない。この論理的(倫理的)不整合が、(時には致命的な)欠陥となる。

 このような非現実的なおとぎばなしでも感動できることこそ、漫画の重要なアドバンテージなのである。(漫画だから、いい加減な話でも通用する、と言っているのではないのだ。お判りいただけるだろうか?)

*ACT.5(第1巻 ACT.5)

 誰かに追われている女を乗せた、ミッドナイト。急いで車を出してちょうだい!!

 一見ホステス風なのだが..アクセルを踏んだミッドナイトは、彼女が水商売の女などではないことを、たちまち見抜く。何言ってんだ、このあたりじゃちょっとは知られたチイママだよ!と、いきがる彼女は、しかし2ページともたずに、馬脚を現す。

 彼女は17歳。政治家の娘で、しつけの勉強のお稽古事のという、どこにでもある話。そんな暗黒の日常に舞い下りてきた天使が、

「その人は三居商事につとめていて、しょっちゅうブラジルとかフランスへ行ってるの。ソルボンヌ大学出で、すっごく知的な人なの」

という男である。学校帰りに、OLやタレントやホステスに化けて、デートを重ねていたのだが、今夜、パパと出くわしてしまい、逃げてきた、と言うわけだ。

 とことん、ウブな箱入り娘なのである。ミッドナイトは彼女に言われるままに、彼氏のマンションに連れていってやるが..案の定、彼女の“彼氏”は最低の男であった。要は結婚詐欺なのだ。インドに豪邸を建てるなどという甘事で、彼女に父の印鑑を盗ませようとするが、お見通しのミッドナイトが踏み込み、この男のカツラと変装を剥ぎ、ぶちのめす。

 ミッドナイトに自宅まで送り届けられた彼女を待っていたのは..父が暴力団に関与していて逮捕された、という報せ。もう何もかも信じられない!と現実逃避を続けようとする娘を、ミッドナイトは、甘ったれずに学校へ行け!と叱るが..

「お願い…お友だちになってちょうだい。今、たよれるのは、あなただけなのよ」

 ..そこでミッドナイトは、彼女を自分の家に案内するが..そこは廃屋..ベッドは棺桶..そしてミッドナイトの口には、牙(のオモチャ)が!

 彼女は悲鳴を上げて逃げ出し、ミッドナイトは空き家を閉めて、棺桶を映画会社に返しにゆく。一匹狼のタクシードライバーなんかに頼るんじゃないぜ..

 いったい、いつ、映画会社から棺桶を借りて来たんだよ![;^O^]

 テーマは平凡だし、ながながと紹介するほどの話ではなかったのだが、主役の娘の行き当たりばったりないい加減さと、物語の進行の行き当たりばったりないい加減さの、妙なシンクロニズムが、ま、面白いと言えば言えるか。[;^J^] それと彼女の、ロリコン的魅力。

*ACT.6(第1巻 ACT.6)

 夜の町。夫婦喧嘩の末、妻は浮気相手の男の車に乗って、出奔。珍しくもない事件であったが..

 客待ちのミッドナイトの車に、段ボール箱を抱えて乗り込んできた少年。もう、夜も更けているというのに、2時間もかかる山の中、信濃野方駅へ行けと言う。

 途中、信越線長野行き最終電車に追い抜かれると、少年は、なんとしても抜きかえせ、あれより先に目的地に着きたい! 無理だ、とミッドナイト。しかし少年は、ダイヤを入念に調べてきたのだ。可能性はある!

 あの電車には、少年の母親が乗っているのだ。例の、夫婦喧嘩をして飛び出した母親だ。少年は、連れ戻すために急いでいるのだろうか..?

 途中で、踏み切りに障害物を置くなどして、信濃野方駅への先回りに成功したふたり。礼もそこそこに、段ボール箱に入っていたアーチェリーの道具を持って車を飛び出した少年は、駅舎の外の草むらに身を潜めてホームを狙うが、あとをつけてきたミッドナイトに制止される。おふくろを殺す気か?! 違う、かあさんを連れ出した男だ! 酒を飲んで、かあさんを殴るわ蹴るわの、酷い親父だが..暴力団の身内の若い男が、かあさんに近づいて、家も子どもも捨てて逃げることを持ち掛けた。かあさんはそいつと逃げた。許せないのは、あの男だ。あいつを殺せば、かあさんを取り返せる! 少年は、男の勤めていた事務所に探りを入れ、座席番号まで調べ上げていたのだ..

 駅の外から、車内の男を射殺せると思うのか? 少年は、ちゃんと手を打っていた。終電車の発車前に、車掌に、その男宛ての手紙をことづけていたのである。大事な話があるから、信濃野方駅に着いたら、ホームの端に来てくれ、という手紙を。

 電車が入ってきた! 少年はミッドナイトを、隙を突いて土手の下に突き落とすと、予定どおり電車から降りて、ホームの端まで歩いてきた男を、アーチェリーで狙い定める..彼が弓を引き絞った時、ミッドナイトの投石で少年は倒れるが、ホームでは、あの男も倒れていた! 間に合わなかったか! 少年は人を殺してしまったか!

 俺は射っていない、と少年は訴えるが、ならば男が倒れるはずがない。せめて自首して、少しでも情状酌量してもらえ、と、ミッドナイトが少年を駅までひきずってゆくと..犯人が捕まったところだった! 少年の父である! 乗客の中にまぎれこんで、あの男を殺すチャンスを狙っていたのである!

 後悔する母親と少年の、感傷的な再会。ふたりで家へ帰って、これからのことを考えよう..

 「ミッドナイト」の典型的なパターンであり、完成度の高いエピソードだ。考え方は幼いながらも、緻密な殺人計画を練る少年の冷徹さが、下手をすると甘ったるい、ベタベタのお涙頂戴になりかねない物語を、引き締めている。さらに、彼の暴虐な父(母の暴虐な夫)は、一見、同情の余地なく描かれているが、実は少年の犯行計画なかりせば、殺人を犯すチャンスはなかったのだ。その意味では、少年が父親をブタ箱に送り込んだも同然なのである..

*ACT.7(第1巻 ACT.7)

 深夜、ごつい体格の不良学生がミッドナイトのタクシーを拾い、廃屋で降りた。そこで待っていた小柄な少年は、彼の弟だった。家からの盗みを兄に強制されていたのである。しかし、優等生で家族思いの弟には、そんなことは出来ない。

 兄には弟を憎む理由があった。兄は、かつて外交官をしていた父に望みをかけられ、そして出来の悪さ故に、見捨てられたのだ。この廃屋は、当時家族が住んでいた家。兄を見放した父は、外交官を辞めて屋敷も手放したのだ。その後に生まれた弟は、出来が良い。父は彼を可愛がっており、きっと外交官にするだろう..

 憎い、憎い、憎い! 弟をリンチにかける兄を、事情を知ったミッドナイトが蹴り倒す。彼は兄をさんざんにぶちのめすが、弟は兄をかばう。僕が優等生だから、兄さんが不幸になる..僕が死ねば、父さんも兄さんを大事にする..

 2階の窓から弟が飛び降りた! 血相を変えて駆けつける兄! 彼はミッドナイトを半ば脅迫して病院に運ばせ、内臓破裂の重傷を負った弟のために、自分の血を輸血用に差し出す。

「オレはどうでも、あいつだけは外交官にさせてやらにゃァならねえッ」

 夜は終わり、ミッドナイトは、今日の夜明けはきれいだと思いながら、走り去る..

 まさにパターンな話だが..弱々しい弟も、ミッドナイトも、この力強い不良学生のひとり舞台の、引き立て役に過ぎない。

*ACT.8(第1巻 ACT.8)

 電柱にぶつかった車を運転していたのは、撃たれて重傷を負った刑事。病院に連れて行こうとするミッドナイトに、それより、前の大型コンテナ車を尾行してくれ! あれにはロケット弾が積まれている! 警察に手配させるわけにはいかない。奴等は無線盗聴機を持っているから、パトカーの動きが判るのだ。窮地に追い込まれたら、人質を..俺の子どもたちを、殺すだろう..!

 コンテナ車のテロリストたちの狙いは、箱根山中で秘密会談をしている、日本と某国の政府要人の暗殺! それに気付いて検挙に動いていた刑事を襲い、家族を人質に取ったのである。

 深夜の追跡..コンテナ車を追うタクシー..ミッドナイトは、刑事に究極の選択を突きつける。子どもの命と、日本と某国の政府要人の命と、どちらを選ぶ? 両方とも助けるのは、無理で贅沢というものだ。世界平和のために政府要人を助けるのなら、機動隊を呼べ。子どもの命を助けるのなら、奴等の勝手にさせるがいい..刑事は、どちらも助けろと呟いたまま、気絶する。

 舌打ちをしたミッドナイトの、戦闘が始まる。尾行するタクシーに気が付いてコンテナ車はスピードを上げ、ミッドナイトは間道に入り、道無き道を、畑を、山林を、岩場を、渓流を走り抜け、先回りに成功すると、ハイウェイの上の山側から、木を次々と車で叩き折って路上に落とし、コンテナ車を止める。そしてコンテナの中から一味が飛び出した隙に、人質を奪還して攻撃用コンソールを奪い取ると、ロケット弾を全てその場で撃ち尽くして、テロリストたちを武装解除する。あとは、駆けつけたパトカーたちの仕事だ。刑事はミッドナイトの表彰を申請したいと申し出るが..モグリのタクシーなのである。ばれたらおおごと、ミッドナイトは退散する。

 ゴルゴ13的カタルシスを楽しめる、荒々しいエピソード。[^J^]


*手塚治虫漫画全集 354

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Mar 29 1997 
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