華麗なるユーウツ

 突然の幸運。ボーナスが99割でたと思ったら、ニューヨーク支社長に任命され、娘を貰ってくれろ、と、社長直々の申し出。彼には家内がいるのだが、女房にはこれを飲ませて追い出せばよろしい、と、社長から健忘薬を渡される。

 帰れば帰ったで、女房から吉報。彼女のブラジルの親戚が、500万ドルの遺産を残して死んだのである。さて、彼女に薬を飲ませるべきか。どちらの幸運を選ぶべきか。

 フトンの中で悩む男に話し掛けてきたのは、“作者”の声。彼は“登場人物”だったのである。お前は今夜死ぬ。この小説のテーマは“幸福の虚しさ”だ、と宣告する“作者”に、せめて明日まで待ってくれ、と頼む男。

 翌日は朝からユーウツである。俺を殺しても、話が中途半端過ぎてボツだぞ!殺すのはやめてスジを変えろ!と、“作者”に訴えると..女房の親戚が10億の借金を残して死ぬ。ニューヨーク支社は閉鎖..ストーリーが変えられたのである。

 所詮は操り人形の人生、と、健忘薬を飲んでも、“作者”に記憶を復活させられる。どうせ死ぬなら女のところで、と言った途端に、彼はベッドの中でノッペラボウの女を抱いていた。まだ“作者”は女のことを考えていなかったからだ。

 ここで“作者”の予定枚数をオーバーし、話の最初からリテイク。ニューヨーク支社長に..やってられるか! 彼は社長を窓から放り出し、娘を襲い、裸踊りをしてみせるが、社長の娘には、かえって気に入られるし、気違いの振りをして精神病院に飛び込んでも、相手にしてもらえない。それならば、と、性転換手術を受け、従軍看護婦としてベトナムに向かい、航海中に海に飛び込んで黒ン坊島に流れ着いて、財宝を発掘し..と、ここまで話を無茶苦茶にされたところで“作者”は音を上げ、彼の指示どおり、「うつくしき妻と共に人生を長く..」という結末にした..はずだが、なぜだか彼の家にいるのは、ショウガである。そう、“作者”が字を間違えたのである。そして彼は「うつくしき姜(ショウガ)と共に人生を長く」すごす羽目になった。

 実に行き当たりばったりの筋はこびである。内容が支離滅裂なのは、一見してテーマにピッタリなようだが、こういうメタがかったドタバタ作品こそ、緻密に構成されないと、散漫な印象を与えてしまう。上記の内容要約を読んでもお判りの通り、話の流れがそこここで塞き止められ、淀んでいるのである。

 そこまでのストーリーと全然関係のない、とって付けたようなオチは、これはこれでよろしい。(面白いとは言わないが。)唯一、“作者”がそのことを考えていなかったために、ノッペラボウとなって現れた女(というより、“女のようなもの”)のシーンのみ、興味深い。


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 2 1997 
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