ブッダ:ルンチャイと野ブタの物語

 ルンチャイは、ぐうたらな子供である。ある日、学校に遅刻した言い訳に、母親が死んだと嘘をつく。家に帰ってみたら、母親がいない。近所の人の話によれば、黒い服を来た恐ろしい男たちがやって来て、母親を、この女は死んだのだ、なぜなら息子が母は死んだと言ったのだからな、いらないのならば連れていく、と、さらっていったというのである。

 自分の嘘が引き起こした恐ろしい結果に、ルンチャイは泣きながらあとを追う。火炎木のガンガ・ブンガに道を聞き、虎のグナプを手なずけて広大な草原を走り、煮えたぎった泥流を軽石で渡り..そして、不気味なマーラの城へ着く。

 そこは死者の世界であった。ルンチャイは、ブタに転生した母親と会う。母親を人間に戻してくれと死神に頼むルンチャイは、自分が代わりにブタになることを承諾する。

 ルンチャイは元の世界に戻ってきた。ブタとなって。元の世界では母親は健在であり、ルンチャイは数日前に死んでいたのだった。母親は、その野ブタを(ルンチャイの転生とは知らずに)飼うことにする。

 数年後、ひとりのシャモンが通りかかり、このブタが母親の息子であることを見抜く。シャモンはそのことを母親には教えず、ただ、このブタを殺すな、売るな。今後一生、殺生をするな。そうすればやがて子供を生むだろう。その子に、死んだ息子の名をつけなさい、と告げて去っていく。

 さらに数年後、年老いたブタは静かに死に、その日に母親が生んだ赤ん坊は、シャモンとの約束どおり、ルンチャイと名付けられた。

 輪廻転生と親子の情愛を完璧に結び付けた、美しい説話である。私には出典が判らない。御存知の方は、御教示を。この短篇は、作者が原稿を落した際の代原(代理原稿)として、連載終了までに2回、再録された。


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Aug 9 1996 
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