ブラック・ジャック:指

 4年後の「刻印」の原型である。

 ロックに呼び出されたブラック・ジャック。今や暗黒街の顔役でありインターポールから追われる身であるロックは、ブラック・ジャックの旧友であった。彼は多指症の患者であり、指が6本あったのだが(緑郎という名の由来である)、医者になったばかりのブラック・ジャックに、6本目の指を切ってもらっていたのだ。

 今度は指紋を変えてくれと言う。理由は言わずもがなであろう。指紋だけを変えるのは無理であり、指ごと取り替えることになる。ロックと部下の、指のすげ替え手術を施して帰るブラック・ジャックの車は、爆発する。ロックの指示である。ロックはさらに、指をすげ替えた部下ごとアジトを焼き捨て、証拠を隠滅する。

 後日、警察に捕まったロック。容疑は数えきれぬほどだが、顔も声も指紋すらも変えてしまったロックを、警部は追求しきれない。学生時代のロックの顔写真と指紋は入手ずみであり、それは犯人のものと一致しているのだ。しかし、捕えたロックは、顔も指紋も違う。学生時代のロックは6本指だったということも判っているのだが、目の前のロックは、5本指である。そこに、爆殺したはずのブラック・ジャックから、ロックの6本目の指の、アルコール漬け標本が届けられた。レントゲン撮影でその指がロックの手の骨格に一致し、従って、ここにいるロックは、6本指を持っていた男だと断定された。かくしてロックは破滅する。

 このエピソードが、どの単行本にも収録されていない理由は、「刻印」と読み比べると、大体判る。多指症患者を(治療すべき)不具者として扱っている、と、読めないことはないのである。(私は気にならなかったが。)また、「刻印」では、ブラック・ジャックを爆殺しようとしたのは、部下の独断ということになっている。

 親友に裏切られ、殺されかかったブラック・ジャックが、報復として親友を告発する。後味がいいとは言わないが、この苦味もまた、ブラック・ジャックの大きな魅力のひとつである。リライトされたことによって、(永久に?)日の目を見なくなってしまったのは、惜しい。


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 25 1996 
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