高木彬光「刺青殺人事件」


 題材の着眼点が見事である。人間の皮の争奪戦?と誤読させる、猟奇と耽美。これが乱歩ならあくどくなるところだが。準備としてひとつの殺人を行っておき、これには完璧なアリバイを作っておいて、本命のターゲットに嫌疑を向かわせ、彼を自殺に見せかけて殺す。確かに、心理の盲点をついている。胴体が運びだされたのではなく、首と手足が運びこまれたのだ、という逆密室プランは鮮やかであるが、外から鍵をかける機械的トリック自体はつまらない。しかし、このつまらなさもプランに折り込み済みという巧妙さ。この擬装密室殺人は、他人に嫌疑を振り向けるためのものであったのに、予期せぬ事情によって「完全犯罪」となってしまい、嫌疑の転嫁に失敗する、という皮肉な趣向は、カーの「***」にもあった。力作である。

*光文社文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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