E・クィーン「ニッポン樫鳥の謎」


 まず、ジャパネスクについてコメントしておくと、これは結構しっかりしたものである。無論、中国との混同はあるが、十分許容範囲内。ワシントンのど真ん中の「日本」という舞台が秀逸。そこに、十数年間に渡って姉を幽閉して搾取してきた似非「大作家」という、おどろおどろの設定が絡み、好ましい対比を見せる。「密室殺人」のトリックは、要するに自殺であって、(なるほど、ハラキリですか。女性の場合は喉を突く点も、正確(だったと思うが。[;^J^]))凶器は籠から放たれた樫鳥が持っていったと。これで、自殺の動機が、その場に居合わせて、唯一「殺害のチャンス」があった女性を陥れることだったりすると、これはこれで良くあるパターンなのだが、実は、彼女が、世界で最も信頼する医師に、不治の癌であると嘘をつかれたから。つまり、その医師による精神的殺人である。無論、証拠はないはずであったが、エラリーが、彼女の手記を発見した−例の樫鳥が凶器同様屋根に持っていっていた−と告げ、それなりに皮肉な結末かと思ったら、実はでっち上げで、医師を自殺に追い込んだ(ことが暗示される)。つまり、エラリーによる精神的殺人で、幕となる。カーレンとエスターの筆跡の件など、多少引っ掛かる点が無いでもないが、実に完成度の高い傑作である。国名シリーズは通読していないのだが、その「国」と、もっとも密接に関係しているのが本書だとのこと。

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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