A・フリーマン「ソーンダイク博士の事件簿II」


 「フィリス・アネズリーの受難」が、特選。写真トリックについては途中で気がつくも「少し非現実的」と思ったのだが、博士の説明の説得力に降参。「パンドラの箱」は、材料が読者に提示されていないのが不満。「焼死体の謎」と「バラバラ死体は語る」は、ラストの一言が気がきいている。「パーシヴァル・ブランドの替玉」は、目を疑うほど粗雑な擬装死体物(倒叙)だが、その粗雑ぶりが弱点になっておらず、主題ですらある。「消えた金融業者」は、彼の倒叙物に良くある、犯人が逃げおおせるパターン。この犯人(?)の心情と行動にはリアリティがある。「ポンティング氏のアリバイ」は、蓄音機トリック。「青い甲虫」は、わざわざエジプトの象形文字を使って英文を書いたという点の他、磁石の「北」が、時代と共に移動するという点を組み入れているのが出色。他、「ニュージャージー・スフィンクス」を収録。「職業上の秘密をとやかくいうのは、一目見れば小学生にでもできるようなことを、いろいろともったいをつけてやりたがる人だけです。だからこそ、そういう人は秘密にする必要があるのです」(256頁)

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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