F・クロフツ「クロイドン発12時30分」


 倒叙形式の、最も初期の作例のひとつ。まことに手堅い作風で、事件の背景から、心理描写から、犯行方法から、警察の推理に至るまで、現実ばなれしている点が全くない。最後の2章は、フレンチ警部による「説明」なのだが、既に読者に(犯人の視点から)供給されている以上の情報は、ほとんど与えられない。地に脚のついたリアリティを尊ぶか、幻想の欠如を惜しむか。私は後者だ。

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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