A・C・ドイル「マラコット深海」


 20年前の読書記録には、「深海を舞台にしたスペース・オペラ」とある。それならば再読するまでもないか..と考えたのだが「それがなぜ『怪談』なのだ?」と、腑に落ちず、再読して仰天。傑作とはとても言えないが、とにかく異形の作品である。前半はまさに「海底二万リーグ」型で、深海のアトランティスの末裔たちの都市の描写も、そのガジェットも、また、数々の「怪物的」生物たちも、それなりに「科学的」に記述されているのだが、終盤になって、突然、「バール・シーパ(黒面魔王)」という悪霊が出現する! 彼はアトランティスの滅亡以来の不滅の『悪』であり、その後の人類史上の大惨事や愚行の数々は、ことごとく彼が裏で操っていたというのである。その超能力は、一応「エーテル」等の言葉で「一見、科学的に」説明されているが、これは明らかにカモフラージュで、本質的にオカルト小説である。そして、この大悪霊を退治するのが、マラコット博士に憑依した、アトランティス滅亡以来のパール・シーパのライバルであった、『善』の「ワーダ」なのである。著者の死の前年の作品。

*創元SF文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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