ジェイムズ・イングリス「夜のオデッセイ」(1965)


 宇宙を行く、無人探査ロケット。彼を送り出した地球文明は、遥かな過去に塵芥に帰しているのだが、その事実は、彼の任務遂行の妨げとはならない。

 宇宙の探索を続け、記録を(今はもう存在しない)地球に送り続ける彼のエネルギー源は、もちろん恒星からの輻射である。しかし銀河が次第に歳老いて行くにつれて、恒星たちも徐々に冷えてゆき、エネルギー源は減って行く。いまや残り少なくなった微かなエネルギー源を求めて、銀河中心に向かった彼は、他の宇宙文明が(遥かな過去に放った)探査ロケットと出会う。そのロケットもやはりエネルギーを求めてやって来たのだ。彼らの出会いは、論理的必然であった。

 こうして、無数の宇宙種族の末裔であるロケット達が、徐々に集う。そして遂に銀河系が死に絶え、エネルギーの供給が断たれた時、彼らは遥か彼方の別の銀河系を目指して、宇宙の深淵をわたる旅に出発するのだった…。

 なんという、力強い物語であろうか。ただのひとりも人間が(どころか、宇宙人も有機体も)登場しないこの作品は、SFのひとつの大伝統の嫡男である。これは本当に短い作品であるが、これの偉大な先達である「スターメイカー」(オラフ・ステープルドン)を、そろそろ取り上げなければなるまい。1996年の6月までには、紹介する。



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MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 19 1996 
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